カラー写真の先駆者ソール・ライターがとらえた、ニューヨークの光と色

色×コラム

カラー写真の先駆者ソール・ライターがとらえた、ニューヨークの光と色

『フリーダ・カーロの遺品 石内都、織るように』(小谷忠典監督)、『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』(ジョン・マルーフ監督)など、2015年は、若い映画監督による写真家のドキュメンタリー映画が豊作。今回ご紹介する『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』(トーマス・リーチ監督)も、そんな作品のひとつです。

写真家ソール・ライターとは?

 
米国ピッツバーグ生まれのソール・ライター(1923年-2013年) は、1946年に画家を志してニューヨークへ。すでに写真家として活動していたユージン・スミスらと知り合い、1948年からカラー写真も撮り始めました。1953年にはニューヨーク近代美術館(MoMA)の新進作家展「Always the Young Stranger」に選ばれるなど、美術作品としても評価されます。その後は、ファッション・フォトグラファーとして『エスクァイア』『ハーパーズ バザー』『英国版ヴォーグ』などで活躍し、1980年代に一線から退きました。

 
同年代のスター写真家に比べれば、決して派手な存在ではありませんでしたが、2006年、ドイツ・シュタイデル社が写真集『Early Color』を刊行したことをひとつのきっかけに、2008年にパリのアンリ・カルティエ=ブレッソン財団で初の個展が開催され、欧米各地でも展覧会が開かれるなど、ソール・ライターのカラー写真は再評価され、注目されるようになりました。 

美術作品としての写真の歴史

 
1940年、ニューヨーク近代美術館に写真部門が開設され、写真も美術のジャンルのひとつとして、評価が試みられてきました。しかし、アートとして評価されるのは、写真家自身がモノクロで撮影し、現像からプリントまですべてをコントロールすることが実質的な条件でした。

 
19世紀末に発明されたカラー写真は、その後改良を続けながら普及していきましたが、カラープリントは写真家自身によるコントロールが難しく、褪色しやすいといった技術的な課題がありました。1970年代半ば、ようやくカラー写真も、美術作品として評価されるようになりました。 

ソール・ライターのカラー写真の魅力


Don't Walk (1952)
(c) Saul Leiter Foundation/Courtesy Howard Greenberg Gallery.

 
21世紀になってから、ソール・ライターのカラー写真が注目されるようになった背景には、デジタル技術の進化があります。半世紀近く前のフィルムからも美しいプリントが得られるようになり、ソール・ライターのカラー写真の特徴である、油彩を思わせるこってりとした色のり、反射、透明性などが色鮮やかに再現されました。


Soames Bantry (1960)
(c) Saul Leiter Foundation/Courtesy Howard Greenberg Gallery.

 
近年、アートとしての写真は、デジタル技術を駆使し、構成的かつ抽象的な作品が人気を集めています。ソール・ライターの作品はそういった後処理はしていないにもかかわらず、大胆で意表を突くフレーミング、ミラーリング効果などによって、新たな視覚を生み出しています。

Snow (1960)
(c) Saul Leiter Foundation/Courtesy Howard Greenberg Gallery.

 
また、ソール・ライターが撮影したニューヨークのロウアー・イースト・サイドは、現在は高級ブティックや流行のレストランが集まるエリアとなっていますが、かつては、移民や労働者階級が住み着いていました。ソール・ライターの写真には、ジェントリフィケーションによって失われた、ニューヨークの人々の暮らしが映し出されています。 

ソール・ライターの人生観

 
2006年の出版をきっかけに、現在も多くの国で、ソール・ライターの回顧展や出版が続いています。ソール・ライター自身は、本作のなかで「大した人間じゃない。わざわざ映画にするような価値などあるもんか」と語っているように、奢らす、飾らず、地に足のついた生き方をしてきたようです。ソール・ライターの急がない生き方は、半世紀前のニューヨークの日常を映し出した作品と重なり合い、見る人の心をとらえるのかもしれません。

 
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作品名:『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』
公開日:全国順次上映中!
公式サイト:http://saulleiter-movie.com/

 
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■カバー写真
Photo by Margit Erb(右端と左端のみ)

 
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