独特の映像美が映し出す、黒衣のヒロインの物語

独特の映像美が映し出す、黒衣のヒロインの物語

『悲情城市』など、1980年代台湾映画界の新潮流である台湾ニューシネマ(新電影)を担った代表的な監督のひとりとされる、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)の新作『黒衣の刺客』。8年ぶりの新作となる本作は、審査員であったコーエン兄弟、ギレルモ・デル・トロ、グザヴィエ・ドランたちから絶賛され、カンヌ国際映画祭監督賞受賞となりました。

シャオシェン監督は、主に、同時代の台湾人の日常生活を描いた作品を制作してきましたが、本作は唐の時代の中国を舞台にした武侠時代劇。台湾のみならず、巨大な市場に成長してきた中国の観客を意識した結果、唐の時代を背景に映像美を探求することにしたそうです。5年をかけて制作された本作は、台湾、中国、そして日本で撮影されました。中国の湖北省の自然の風景、京都や奈良、兵庫の古刹を利用した屋敷の場面などを背景に、不穏な物語が進行します。
 

哀切さが漂う黒衣のヒロイン


(c)2015 Spot Films, Sil-Metropole Organisation Ltd, Central Motion Picture International Corp.

 

物語の舞台は、8世紀の中国。唐王朝が外敵を防ぐため各地に設置した藩鎮が、お互いの勢力を競い合うようになり、朝廷の支配力は弱体化していました。地方の重臣の一人娘の隠娘(スー・チー)は、幼くして女道士に預けられました。超一流の刺客に育てられた隠娘は、暗殺の使命を帯びて13年ぶりに帰郷します。標的はその地で強大な勢力を誇る藩鎮の長、田李案(チャン・チェン)。かつての婚約者ですが、今、彼には別の藩鎮から迎えた妻と妊娠中の愛妾がいます。


(c)2015 Spot Films, Sil-Metropole Organisation Ltd, Central Motion Picture International Corp.

 

藩鎮の豪奢な宮殿、華美な調度品や衣装が、黒衣のヒロインの哀切さを際立たせますが、黒衣といっても、黒づくめではなく、黒い羽織りの下には紫色の長着を身につけています。ロングショットが多いこともあって、衣装のディティールはよくわかりませんが、幾重にも重ねられた衣装が、ヒロインの複雑な心の動きを表現しているようです。
 

鏡が映し出す、黒衣に包まれたヒロインの心


(c)2015 Spot Films, Sil-Metropole Organisation Ltd, Central Motion Picture International Corp.

 

本作では、台湾の名優に加え、日本の俳優も重要な役割を担っています。暗殺の任務中に窮地に追い込まれる隱娘は、難破した遣唐使船の日本青年(妻夫木聡)に助けられます。日本青年は鏡磨きという役柄でもあります。鏡は不可視の存在を映し出すもの。単なる化粧用具としてだけではなく、呪術的な霊力を備えたものとして重要視され、祭器や首長の権威の象徴とされました。特に、唐王朝時代の鏡は、豪華絢爛を極めました。
 
鏡磨きの青年が登場する場面は、ろうそくの光に照らし出される豪奢な宮殿とは対照的に、太陽の光が降り注ぐ雄大な自然が舞台となっています。政治の闇、男女の関係が絡み合い、人生を翻弄されるヒロインに、この日本青年は、持ち前の明るさと人間的な深みで接します。
 
全編を通して、シャオシェン監督ならではの美意識が感じられる本作。光に満ちた美しい自然と人間が抱える闇の対比によって、黒衣のイメージが幾重にも広がっていくように感じられるのではないでしょうか。
 


(c)2015 Spot Films, Sil-Metropole Organisation Ltd, Central Motion Picture International Corp.

 

作品名:『黒衣の刺客』
公開日:2015年9月12日ロードショー
公式サイト:http://kokui-movie.com/
コピーライト: (c)2015 Spot Films, Sil-Metropole Organisation Ltd, Central Motion Picture International Corp.

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